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世界初の水素爆弾実験をVRで体験「Perspectives: Paradise」  (2019/10/28 new)

概要

今回のTipsでは、アメリカが1952年に世界初で行った、水素爆弾(核爆弾)実験のシミュレーション(simulation)体験ができるコンテンツを紹介します。

前回紹介した「アポロ11号」と同様に、教養コンテンツです。

実際に行った水爆実験のシミュレーション体験を通して、核兵器について様々な考えを持てます。 また、核爆弾の実験回数が想像以上に多いことについて、初めて気づく方も多いと思います。

世界で唯一の広島・長崎での原爆投下、福島の核燃料事故を経験している日本としても、再考してみるべきテーマです。

この記事内では、VR体験前の事前知識として、核爆弾の歴史などについても簡単にまとめています。

地理や歴史に興味がある方にお勧めします。








Apollo




Perspectives: Paradiseについて

このコンテンツは、水素爆弾実験とエニウェトク環礁(Enewetak Atoll)の現状を通して、核兵器における人類の在り方をテーマとしています。

コンテンツ内で体験できるシミュレーション映像は、「アイビー作戦のマイク実験(Ivy Mike)」と呼称されている、1952年11月1日にアメリカが世界初で行った水素爆弾実験です。 (アイビー作戦では、他にキング(King)実験が実施されている)

核爆弾は、エニウェトク環礁にあるエルゲラブ島(Island of Elugelab)に設置されました。シミュレーションではその地点(ground zero)から、10Km離れた地点に立ちます。そしてこの地点で、水素爆弾実験を仮想体験することになります。


目の前で光る閃光と爆発、立ち上るきのこ雲、迫りくる衝撃波・・・、この仮想体験を通して様々な思考が交錯するでしょう。

なお、半径10km以内に人が存在すれば、3度の火傷(熱傷)及び永久に失明するだろうと説明されています。3度の火傷とは、3段階に分類された症状の中で最も重症な状態です。 皮膚内の血液が無くなり、皮膚の色が白や黒に変色します。(神経が損傷するために痛みが無い)

また、衝撃波が約17秒で立っている地点に到達し、もし人間が立っていれば死に至るようです。



このコンテンツは日本語に対応していません。英語とフィンランド語(SUOMI)のみです。シミュレーションに関しては映像がメインとなるので特に気にすることはありません。 また、その他の内容については、概要を基本的な操作方法に記載しました。参考にしていただければ、特に困ることはないと思います。

コンテンツには、大きく分類すると次の内容が含まれています。

  • 水素爆弾実験のシミュレーション
  • エニウェトク環礁で行われた核爆弾実験の数々
  • ルニット・ドームに関する映像
  • 現在のエニウェトク環礁に関する映像
  • マーシャル諸島に関わる3者のインタビュー


ルニット・ドームとは、放射能汚染物質を封印した巨大なコンクリート・ドームです。 エニウェトク環礁のルニット島(Runit Island)で実施された核兵器実験である、カクタス(Cactus)実験後に出来たクレーター(crater)跡に建造されています。
近年、コンクリートのひび割れなどが発生しており、サイクロンが直撃した場合に崩壊する可能性があることも危惧されています。
(ドームの仕様: 直径111m、高さ7.5m、厚さ45cm)









核兵器実験について

核兵器実験の歴史的背景や、核爆弾について簡単に説明します。事前に知識を得ることで、VR体験がより興味深いものになります。

1.歴史的背景

冷戦期にはアメリカとソ連を中心に、約2,000回の核兵器実験が行われていました。特に1950年台から1960年代にかけては、アメリカとソ連による最も多くの大規模な核出力を伴う核兵器実験が行われています。 ここでは、重要な史実のみ抜粋し簡単な年表形式で説明します。

  • 1945年7月16日: アメリカが史上初の核兵器実験(原爆)を行う。通称トリニティ(Trinity)実験。
  • 1945年8月6日: 広島に原爆投下。史上初となる実戦使用。
  • 1945年8月9日: 長崎に原爆投下。2度目の実戦使用であり、2019年現時点では最後の実戦使用となっている。
  • 1949年: ソ連(現ロシア)が初めての核兵器実験(原爆)を行う。
  • 1952年: アメリカがエニウェトク環礁で史上初の水爆実験を行う。通称アイビー作戦のマイク実験。
  • 1952年: イギリスが初めての核兵器実験(原爆)を行う。1957年には、初の水爆実験も行っている。
  • 1953年: ソ連が初めての水爆実験を行う。
  • 1954年: アメリカのビキニ環礁で行われた水爆実験時に、日本の第五福竜丸が放射性降下物を浴びる。(約半年後に無線長が死亡)
  • 1960年: フランスが初めての核兵器実験(原爆)を行う。1966年には、初の水爆実験も行っている。
  • 1961年: ソ連が世界最大となる50Mt規模の核兵器実験(水爆)を行う。広島原爆の3,300倍の威力が有り、衝撃波が地球を3周したとされている。通称ツァーリ・ボンバ。
  • 1962年: アメリカがネバダ州で実施した地下核兵器実験後、国内最大の人工クレータが出来上がった。通称ストラック作戦のセダン実験。
  • 1963年: 部分的核兵器実験禁止条約 (PTBT)がアメリカ、ソ連、イギリス間で調印される。(地下を除く大気圏内、宇宙空間及び水中での核兵器実験禁止)
  • 1964年: 中国が初めての核兵器実験(原爆)を行う。1967年には、初の水爆実験も行っている。
  • 1974年: インドが初めての核兵器実験(原爆)を行う。1998年には、初の水爆実験も行っている。(核弾頭は未搭載)
  • 1979年: 南アフリカとイスラエルが初めての核兵器実験(原爆)を行ったと推測されている。
  • 1996年: 包括的核兵器実験禁止条約 (CTBT) が国連で採択されたが、2019年現時点でも未発行となっている。(地下を含むあらゆる場所での核兵器実験禁止)
  • 1998年: パキスタンが初めての核兵器実験(原爆)を行う。(北朝鮮の代理実験だとされている)
  • 2006年: 北朝鮮が初めての核兵器実験(原爆)を行う。
  • 2016年: 北朝鮮が初めての水爆実験を実施したと発表する。(本当に水爆実験であったのかについては懐疑論が有る)
  • 2017年: 北朝鮮が核兵器実験を行う。ICBM搭載のための、水爆実験に成功(事実は不明)したと発表する。(2019年現時点では最後の核兵器実験となっている)

2019年現時点で水爆実験を行った国は、次の7か国となる。
アメリカ、ロシア(旧ソ連)、イギリス、フランス、中国、インド、北朝鮮

近年、北朝鮮が頻繁にミサイルの発射実験を行っています。もし、大陸間弾道ミサイル(通称ICBM( intercontinental ballistic missile))に核爆弾を搭載された場合は、北朝鮮から遠く離れた国も核攻撃の標的になります。 そのため、ICBMの発射実験に関しては、アメリカも見過ごしができないことになります。



2.核爆弾

核爆弾には、原子爆弾(原爆)と水素爆弾(水爆)があります。違いを簡単に説明します。

  • 原子爆弾: ウランやプルトニウムの原子核分裂を利用した爆弾。原子力発電も、原子核分裂を利用している。ただし放射能汚染は発生するが核爆発はしない。
  • 水素爆弾: 重水素の核融合を利用した爆弾。原子爆弾の開発より高度な知識が必要で、威力も桁違いに強力にできる。

近年警戒されている核兵器の一つとして、核爆弾の種類や規模を問わない高高度核爆発(HANE)があります。これは、高高度で核爆発を起こし、基本的には電磁パルス(EMP)によるインフラや電子機器を破壊する攻撃手段です。
しかし、爆発時の閃光を直視した場合は、地上での核爆発と同様に失明すると言われています。 また、瞬間的に電子レンジに閉じ込められた状態になるため、人体への影響については予測できないとされています。








基本的な操作方法

基本的な操作方法といっても、操作できることはあまり有りません。そのため、コンテンツ内の概要を中心に説明します。英語が苦手な方は、参考にして下さい。
なお、一部メニューに正常に遷移できないバグが含まれています。





1.水素爆弾実験のシミュレーション

起動後、Startボタン実行時に自動的に開始されます。起動直後のシミュレーション中は他の操作ができません。 なお、メニューから実行した場合は、Closeできます。
また、シミュレーションは、浜辺に立って行う仮想体験と、エニウェトク環礁を俯瞰する2つの映像に分かれています。 浜辺に立つ仮想体験では、爆発前にカウントダウン(count down)のアナウンス(announcement)が開始されます。

2.エニウェトク環礁で行われた核爆弾実験の数々

各アイコンは、核兵器実験が行われた場所を示します。

アイコンの色は、核出力規模の大きさによって分類されています。赤色に近いほど核出力規模が大きい核兵器実験を表します。(赤色 > 水色)
各アイコンを選択することで、核兵器実験の詳細を表示できます。(実験日時、実験名、核出力規模など)
また、再生マークのあるアイコンは、核兵器実験時の動画を再生できます。

3.ルニット・ドームの映像

放射能汚染物質を封印したルニット島の、コンクリート・ドームの映像が再生されます。
特に操作できることはありません

4.現在のエニウェトク環礁に関する映像

現在のエニウェトク環礁の状況を映像で確認することができます。


各映像の概要は、次のようになります。

  • Visit a family: エニウェトク環礁の避難住民は、1980年に帰国することを許可され、現在650人が住んでいる。取材先として訪れたのは、サロンモン・バウル(33歳)の家族。 米国は今でも四半期毎に、この島にお金と食べ物を支援している。しかし、2023年に米国は、エニウェトクへの援助を減少させるとしている。 「その時、エニウェトクの住民はどうなるのか?」というメッセージ映像。
  • See the radiation laboratory: 米国エネルギー省の研究室では、エニウェトク環礁の住民の放射線レベルを測定している。 放射線のレベルが高いとは判断されていないが・・・。
  • Check out the center of town: エニウェトク環礁で生活するにあたり、もうここに危険はないとされている。しかし、放射線が残るのではないかと恐れている。 ここで生活するための唯一の収入源がココナッツ栽培。しかし、この島のココナッツを誰も買ってくれない・・・。
  • Stand on the boat pier: マーシャル諸島の首都マジュロを経由し、補給船が年4回訪れる桟橋の映像。 マジュロまでの距離は1,100Km(680マイル)。
  • Hang out at the airport: アメリカによってエニウェトクに建造された古い滑走路の映像。 住民は、誰も飛行機を飛ばすことができない・・・。
  • Join a school celebration: 島内にある学校のお祝い映像。 「爆弾や銃、核による恐怖は過ぎ去り、ようやく自分たちの土地へ戻ってきた。ここは自分達の国、土地、島だ。」という内容の歌詞。

5.マーシャル諸島に関わる3者のインタビュー

現在もマーシャル諸島に関わる活動をしている、3者のインタビュー映像です。


各インタビューの概要は、次のようになります。

  • I was at ground zero (Robert Celestial): ロバート・セレスティアル(放射能汚染物除去員ベテラン)のインタビュー映像。
    核爆弾設置地点を含む環礁内の汚染物を、ボートに乗ってルニット島のドーム内に捨てる作業をしていた。 ドーム内より、外側の方が汚染されていた。 その当時、自分達は若く愚かであり、何年も後になって自らが受けた影響や状況を知ることになった。
  • American's great f***-up (Jack Niedenthal): ジャック・ニーデンタール(保健福祉省長官)のインタビュー映像。
    40,000年経過するまで、この環礁に来ることができないと言っていた掲示があった。それは、ジョークではなかった。 今、ルニット・ドーム上でインタビューをしているが、圧倒され閉口させられた。 あなたが、このドームの上に立って下にある物、そして歴史を理解する時、私が言える唯一のことが有る。 それは、「このドームは、アメリカの非常に愚かな失敗(great fuck-up)による巨大な金字塔だ」ということだ。 汚い言葉だが、「fuck-up」を使うことがこのドームを説明するのに最適だ。

    日本語で表現するならば、『fuck-up ≒ ク〇ッタレなヘマ』あたりだろうか・・・。
  • We sacrificed everything (Alson Kelen): アルソン・ケレン(マーシャル諸島の気候変動活動家)のインタビュー映像。
    私たちは生活環境を含め多くを失った。しかし、多くの国の人々には認識されていない。 大国は、小国を犠牲にしどんどん豊かになるが、私たちは見捨てられている。 「どう感じているのか? 本当に気分が悪いよ・・・。」









まとめ

かつては日本の統治領であったマーシャル諸島。第2次世界大戦でアメリカに占領され、核爆弾実験で無残な環境破壊が繰り返されました。

そして今、ルニット・ドームは、老朽化により非常に危険な状態にあることを、国連からも警告されています。 なお、エニウェトク環礁の件は、あくまでも氷山の一角でしょう・・・。

このコンテンツを通して紹介した核兵器等の知識については、多くの方に是非記憶していただきたいところです。 そのうえで、核戦争(核)をテーマにした映画やゲーム等のエンターテインメントを楽しんでみて下さい。今までとは異なる見方ができると思います。

また、このコンテンツは、2019年9月10日にリリースされた比較的新しいコンテンツです。今後もこのようなVRコンテンツの登場を期待したいところです。


現在、フランスに世界初となる核融合炉の建設が進められています。日本をはじめとする多くの国が協力参加しています。(2025年稼働予定)

果たして人類は、核エネルギーを制御できるのだろうか・・・。






更新履歴

2019.10.28

 
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